目的


前身となる波動の横断的センシング技術協同研究委員会(委員長:森山剛,東京工芸大学)は,単なる個々のセンシング技術(X線,紫外線,赤外線,テラヘルツ波,ミリ波,マイクロ波,超音波,音というように,波動の帯域ごとに専門化されてきた)の寄せ集めというのではなく,互いに他の技術の特徴を引き出すように融合する新たなセンシング技術の枠組みを「波動の横断的センシング技術」と称し,その具体的な協同研究を行うことを目的として,2014年4月に設置され,第一に委員相互の専門分野に関する理解を深めると共に,互いの共通点や相違点を明らかにすると共に「波動の横断的センシング技術」という概念の外部への発信を行ってきた.その結果,音や画像,生体信号といった異なる信号に関する技術,あるいは,ヒューマン・インタフェース,知能システム,医療,スポーツ,栄養学,メディア・アート,センシング,可視化といった様々な応用技術の間に,まさに横断的な視点に立った新しい技術の創成が可能であるとの認識を共有することができ,本協同研究委員会設置の目的が達成された.

 

その成果に基づき,引き続き,技術課題からの視点でそれに関連する専門分野を横断的に協調させて適用する新たな方向性について協同研究活動を深めていくと共に,さらなる展開を図ることが重要である.すなわち,これまでに培った専門分野それぞれの理解を,概念に留めず具象化していくために,今後は具体的な応用課題を明示し,研究体制や研究計画,研究手法を組み立てる具体的作業を通して協同研究を進めていくことを目的とする.

 

背景


近年,IoT (Internet of Things)やクラウドコンピューティングを背景に,これまで別々の専門領域で扱われていた各種生体信号,画像や音声,メタデータがビッグデータの形で集積され,医療や健康,広告,行政,娯楽,美容といった様々な分野で利活用する取組みが始まっている.例えば,医療においては,生体から得られるセンシングデータと患者の既往症等のプロファイルとが互いに互いを意味づける関係にあり,医療費抑制のための先制医療等では,これらの情報を総合して診断支援を行えるような,安価で簡便なハードウェア及びソフトウェアを普及させることが急務である.従来,この情報を総合する機能は人(医師)が担っていたが,総合診療が根付いていない我が国では,その機能が隅々まで十分に果たされていないのが現状である(20134月にようやく「総合診療専門医」という用語が策定されたに留まっており,認定基準や養成プログラムは未着手).また,その他の例として,栄養学においても,化学物質としての食品に関して研究されてきたが,食事において匂うことや味わうこと,会話等で気分が変化することといった食事という事象全体を総合的に捉える研究はほとんど行われていない.このように,専門に分化した技術を単に寄せ集めるだけでは解決に至らない諸問題については,ちょうど医療における総合診療が,病気から症状への知識を単に統合する順問題を解く代わりに症状から病気を言い当てる逆問題を対象としているように,技術課題の側から逆にそれに必要な専門分野を招集する新たな技術分野の創成が急務である.

 

一方、本委員会の着想に近いものに、科学技術交流財団「多次元センシング技術の実社会システムへの適用に関する研究会」や科学技術振興機構「安全・安心な社会を実現するための先進的統合センシング技術の創出」があるが、「専門ありき」の立場で構成されたものとなっており、本委員会では「課題ありき」の立場から技術を見直そうとするものである。

 

共同研究事項


 

    専門技術の理解

音,画像,生体信号,メタデータ,センシングの各専門技術について理解を深める

    社会に存在する既存の,あるいは新たな技術課題について,横断的センシング技術の具体的応用可能性の議論

専門を組み合わせて技術課題に対処するボトムアップ型ではなく,技術課題の性質からどのような専門技術を用いるべきかを議論するトップダウン型の議論を行う

    新たな横断的センシング技術の創成

スパースモデリングに代表される新たな事象のセンシング技術に基づき,既存の知覚情報技術を再構成していく新たな技術的可能性を追究する

 

    その他

 

予想される効果


科学技術の高度化は細分化と専門化の一途をたどっている.そのため,これまで専門分野を横断的に捉えて応用分野の諸問題に対応しようとする試みでは,専門の寄せ集めに終始し勝ちであった.本委員会は,技術課題本位に専門分野を横断的に捉える技術的枠組みをさらに促進し,さらに具体的な問題設定を行うことで,アウトリーチを強化していく.また,研究課題の具体化と成果の発信によって,より多くの研究者が同様の価値観を共有していくことを狙いとする.このように技術課題本位に問題解決をする枠組みは,社会の強い要請でもあり,諸産業への応用も同時に議論することで,技術シーズと産業ニーズのマッチングや応用分野からのフィードバックを得ることも行っていけると期待できる.

 

活動予定


委員会 3~4回/年
事務的な連絡(年度中の計画や特集論文の計画などを協議)が中心
適宜、見学会や講演会をプラスする(開催場所を毎回変える)

 

報告形態


研究会、部門大会シンポジウムでの発表